続・天下の忘れん坊将軍
やっぱり、年末は時代劇でしょう。
いえいえ、白虎隊ではありません。明智光秀でもありません。
先日、娘と夫と話しているうち、忘れん坊将軍の話になった。
夫に限らず、うちは、皆いろいろエピソードの持ち主で、もっとあるやんかという話に。
「でもな、あまりにおばかな家族やし、ホントとは思われへん。作り話みたいで、よう書かんわ」と私。
まあいいか、年末は笑って年越してもらいましょう。
財布や定期を忘れるのは、将軍様に限らない。
ある年度末、二男の高校の成績表の出欠欄を見て、気がついた。
「あんた、なんでこんなに遅刻があるん?」
二男は、毎朝、猛スピードで自転車を走らせ、駅に行く。
忘れた。忘れた。また猛スピードで、定期や財布を取りに帰る。
ああ残念。
すでに母も仕事に出て行って、鍵がかかっている。
鍵はいつも財布の中。
でも大丈夫。彼の部屋の窓の鍵はいつもかけてない。でも2階だし‥‥
でも大丈夫。裏庭にはいつも脚立が置いてある。脚立で屋根伝いに行けばわけない。
「えーっ そんなこと何回あったん?」と私。
「3回くらいかな?」とニコニコ答える。
「うんよろしい。遅刻の数と合ってるわ」
長男が、地方の大学から就職活動のため、スーツを取りに帰るのが第一目的で、冬休みの帰省をした。
いつものように、おんぼろ車に食料をたくさん積み込んで、雪の中を、真新しい革靴とともに、帰っていった。
4時間後に電話が鳴った。
「もしもし、無事着いたけどな‥‥ あのなスーツ忘れたんや」
「えーっ!!! あんた何しに帰ったんやー。すぐ送らなあかんなー」
「あのなーおかあさん 僕なー さすがにジダンダふんだわ」
プッと吹き出してしまった。
将軍様は、あいも変わらずいろいろ忘れるけれど、やはり鍵を持たないのは、しょっちゅうで、そのうえ、私が出かける予定もまったく覚えていない。
締め出されるのは当たり前だわ。
あるとき、またまた締め出された将軍様。
しめしめ、きょうは窓が一箇所鍵がかかっていない。
椅子を持ってきて、窓から入れたと、うれしそうに語り、
「うん、一箇所開けとくといいなー」と御満悦。
どこの世界に、鍵を閉め忘れてほめられる女房がいる?
次の日、向かいの奥さんが、私の顔をみるやいなや走り寄ってきた。
「きのうな、どろぼうがお宅にはいりかけててな、
あわててお父さん呼んできたんや。よう見たら、ご主人やってん。
警察に電話しよう思ったんやで。ホンマびっくりしたわ」
私だったら、笑いをこらえて話すけど、奥さんは真剣なまなざし。
そんな夫をもった私を、心底同情している目つきだった。
だから、そのあと今度は私が鍵を忘れて、窓から入ろうとした時、
向かいの奥さんに見つからないかと、なによりそれだけが心配だった。
てなわけで、私も窓から入ったことは、2回ある。
娘は「私は1回やわ」と。
なんちゅう家族や!!!
忘れたわけではないけれど、将軍様にはこんなとぼけた話もある。
まだ両親をこちらに呼び寄せる前、実家へ遊びに行き、こちらへ帰ってきたら、またもや将軍様の運転免許証がない。
忘れてきたと思い、電話をして、ずいぶん探してもらったけど見当たらない。
いつものように、再発行してもらい、免許証の事はすっかり忘れていた。
ある日、父から電話がかかってきた。
「あのな、クククッ トイレが詰ってなー、クククッ」と、どうも笑いをこらえている。
「それがどうしたん?」
「水道屋サンにきてもろてなー、クククッ。原因がわかったんや クククッ」
「何が詰ってたん?」
「○○さんの顔がな、出てきたんや グググッ。
探しとったやろ? ワッハハハー」
水もしたたるいい男の顔写真は、長らく大声で笑ったことがなかった、淋しい二人暮らしの老人を、大いに笑わせた。
「そうか、おじいさんそんなに笑ってたか。 よかったなー」
うれしそうに、そうのたまう将軍様は、やっぱり大物だと、私は尊敬すらしている。
前話「天下の忘れん坊将軍」は、10月25日に載せています。
自分より、忘れん坊がいると、まだまだ私は大丈夫と、自信につながり、希望の年が明けますように。
では みなさま良いお年を!
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